初戀 Contents

初戀
物 語

※ BL要素が含まれていますので、18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

 

どうすることが正解でどうすることが普通なのかわからなかった。

中三の時の進路相談で、おまえならどの高校でも大丈夫だと言われた。模試の結果はいつもA判定だった。進学校に行けば勉強で忙しく、他人に構ってる暇なんてないひとたちで溢れ返ってるだろうと思って選んだ学校には、桁違いのイケメンがいて大賑わいだった。

僕の高校生活は、嫌な予感とともに幕を開けた。

 

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第一話 犬も歩けば一期一会
初戀 第一話
第一話 犬も歩けば一期一会「新入生宣誓、代表 一年三組 藤城 湊ふじしろ みなと」「はい」高校の合格発表があった翌日、学校から連絡が来た。入学式での宣誓文を考え...

 

第二話 及ばぬ鯉の滝登り
初戀 第二話
第二話 及ばぬ鯉の滝登り「藤城ふじしろ……は、現状維持で」「……はい」夏休みに入る前、担任からそう言って渡された成績表をそっと開き、まあまあかな、と思って閉じた...

 

第三話 賎に恋なし
初戀 第三話
第三話 賎に恋なし「……食べる?」「えっ、いいの?」いいの? も何も、そんな風に弁当ガン見されてたら落ち着いて食べられない……「一学期最後の弁当だから、好きなだ...

 

第四話 籠鳥雲を恋う
初戀 第四話
第四話 籠鳥雲を恋う「賢颯けんそう、何もそこまでしやんでも……」「ぼくがそうしたいだけやから……気ぃ遣わんとって」「ほんまに大丈夫なん? 最初だけでも一緒に」「...

 

第五話 貞男勃てたし間男したし
初戀 第五話
第五話 貞男勃てたし間男したし根元から先端までゆっくり舌を這わせると、藤城の腰がビクッと跳ねる。全身性感帯なんじゃねえの……とりあえず入るところまで、と思い咥え...

 

第六話 秋の鹿は笛に寄る
初戀 第六話
第六話 秋の鹿は笛に寄る「……最初は…わかんなくて」「何が」「何されてるか……わかんなくて」「…………」「まだ小学生で、そういうこと知らなくて」「藤城」「誰にも...

 

第七話 暗闇の猫は皆灰色
初戀 第七話
第七話 暗闇の猫は皆灰色「藤城くん」……中学にあがり、学校で女子に話し掛けられるのは初めてだった。あれ、僕何か忘れてたかな……宿題、日直、掃除当番、委員会……ど...

 

第八話 愛は屋上の烏に及ぶ
初戀 第八話
第八話 愛は屋上の烏に及ぶ「薫子かおるこ、ほんまに行くん?」「うん、東京なら迷わないし」「まあ…薫子なら押し掛けても怒られへんか」「なんでわざわざ東京行ったんや...

 

第九話 時は得難くして失い易し
初戀 第九話
第九話 時は得難くして失い易し── 非常に気まずい。都築つづきさんは久御山くみやまのことが好きで、久御山とふたりきりがよかったんだろうけど……完全に僕おじゃま虫...

 

第十話 禍福は糾える縄で縛れ
初戀 第十話
第十話 禍福は糾える縄で縛れ九月になってもまだ日中の気温は真夏のそれと変わりなく、半袖でも汗ばむ日々が続いていた。教室の中にいれば冷房のおかげでうだることはなか...

 

第十一話 文はやりたし書き手が居らぬ
初戀 第十一話
第十一話 文はやりたし書き手が居らぬ「セックスしたい」桁違いのイケメンが投げる剛速球のストレートを打ち返せる人間がこの世にいるだろうか。僕だって学校帰りに久御山...

 

第十二話 厭と頭を縦に振るしなんなら腰だって
初戀 第十二話
第十二話 厭と頭を縦に振るしなんなら腰だって藍田あいだと別れ僕は走った。もしかしたら、もう帰ったあとかもしれない。とりあえず玄関で靴を確かめれば、いるかいないか...

 

第十三話 あの声で蜥蜴を食らう不如帰
初戀 第十三話
第十三話 あの声で蜥蜴を食らう不如帰休み時間になると、教室の外は女子校かと見紛うばかりの賑やかさで盛り上がる。毎日毎日飽きもせずよく続くもんだな、といまでは感心...

 

第十四話 その男、桜庭 榛臣
初戀 第十四話
第十四話 その男、桜庭 榛臣そろそろ涼しいを通り越して寒くなって来たな、と思いながら購買から戻ると、教室の一角で少しばかり興奮気味に話をしてるヤツらの声が、否応...

 

第十五話 空き家で声を嗄らす癖
初戀 第十五話
第十五話 空き家で声を嗄らす癖「眼鏡、予備とかあるの?」「度数合わなくなった古いやつがあるから……二、三日は大丈夫だよ」「明日眼鏡屋行こ」さすがにNOノー眼鏡は...

 

第十六話 悋気せぬ男は撓らぬ竿
初戀 第十六話
第十六話 悋気せぬ男は撓らぬ竿「ねぇ…シャワーさせて」「……なんで?」「恥ずかしい……から…」「必要ないよ」「でも……」バイト先の先輩に誘われ飲みに行った帰り、...

 

第十七話 その男、樋口 宗弥
初戀 第十七話
第十七話 その男、樋口 宗弥「湊ーちょっとー」母に呼ばれて下におりると、見慣れないスーツ姿のひとがリビングのソファに座っていた。父の関係者にしては少し若い気もす...

 

第十八話 お医者様でも草津の湯でも
初戀 第十八話
第十八話 お医者様でも草津の湯でも「ねねね、見た?」「見た見た! あれ桜庭さくらば先輩だよね!?」「やっぱり!? 今月号見てビックリしちゃった」「隣のイケメン、...

 

第十九話 恋し恋しと鳴く蝉よりも
初戀 第十九話
第十九話 恋し恋しと鳴く蝉よりも店に入ると、やっぱりスポットライトを浴びているようにそこだけ輝いて見えた。もう何度か逢っているけど、毎回その姿を見つけるたびに心...

 

第二十話 生簀の鯉、俎板の鯉
初戀 第二十話
第二十話 生簀の鯉、俎板の鯉「本当にいいんですか?」久御山くみやまの申し訳なさそうな声に、宗むねさんは笑いながら言った。「トランクルームに突っ込んであるだけって...

 

第二十一話 気の利いた化け物さえ引っ込む時分
初戀 第二十一話
第二十一話 気の利いた化け物さえ引っ込む時分母屋で話し込んでいる大人たちのせいで食事会が始まらない。始まらないということは終わらないということで、必然と溜息の数...

 

第二十二話 堰かれて募る恋の情
初戀 第二十二話
第二十二話 堰かれて募る恋の情「……まったく…知らなかったわけでは…ないんですけど」華さんが久御山くみやまの主治医から聞いたという話は、僕のお気楽な思考を叩きの...

 

第二十三話 その男、久御山 燠嗣
初戀 第二十三話
第二十三話 その男、久御山 燠嗣はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……想像してたよりずっと……男らしかった……肌も白くてきれいで……お尻、格好良かったな……...

 

第二十四話 その男、橘 真光
初戀 第二十四話
第二十四話 その男、橘 真光最近仕事が忙しく帰宅が深夜になる宗さんに頼まれ、僕は三年生の教室がある東棟で桜庭さんを待っていた。通常ならいろいろ怖くて近付かない場...

 

第二十五話 世の中には月夜ばかりはない
初戀 第二十五話
第二十五話 世の中には月夜ばかりはない「…あ…っ…んん…ん」「…っ…ん…」場所はどこでもよかった。屋上でも、図書室でも、保健室でも、音楽室でも、教室でも、どこか...

 

第二十六話 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
初戀 第二十六話
第二十六話 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ「お母さん、あのね」「…向こうで遊んでて」「でも、お母さん」「お願いだから、あっち行ってて」深く、海よりも深く、妻は夫を...

 

第二十七話 その男、綾小路 澄晴
初戀 第二十七話
第二十七話 その男、綾小路 澄晴「う…っ…ん…」「ほら、もう少し脚開けよ」「うぅ…お願…い…やめて…」「…おまえのお願いを」「…はぁ…っ…」「聞いたとして」「ん...

 

第二十八話 石を抱きて淵に入る
初戀 第二十八話
第二十八話 石を抱きて淵に入る「澄晴きよはる……大学どうするんだ?」爽やかな朝、家族が集まる食卓で親父の心無いひと言がボクの心を抉えぐる。口に入れたクロワッサン...

 

第二十九話 冬来たりなば春遠からじ
初戀 第二十九話
第二十九話 冬来たりなば春遠からじ「開いてるよ」扉を開けて中へ入ると、玄関まで出て来た純暁よしあきさんが驚いた顔で動きを止めた。別宅の存在はアヤから聞いていたけ...

 

第三十話 比翼の鳥、連理の枝
初戀 第三十話
第三十話 比翼の鳥、連理の枝冬休みに入る直前、久御山くみやまは休み時間毎に呼び出されていた。久御山と一緒にクリスマスを過ごしたい女子が、なんとか久御山を落とそう...

 

第三十一話 一富士二鷹三茄子
初戀 第三十一話
第三十一話 一富士二鷹三茄子「久御山くみやまくん、ちょっと休憩しない?」遥はるかさんに手招きをされ、ブラシとホースを足元にまとめた。大掃除の必要がないよう常にき...

 

第三十二話 その男、藤城 漣
初戀 第三十二話
第三十二話 その男、藤城 漣「失礼します……藤城ふじしろ教授、ちょっといいですか?」「はい、どうしましたか?」校内にある教授の部屋を訪ねた学生は、藤城の顔色を窺...

 

第三十三話 山に躓かずして蟻塚に躓く
初戀 第三十三話
第三十三話 山に躓かずして蟻塚に躓く「…え、いや、今日はバイトが入ってたので」「ああっ、疲れてるところごめんなさい! もう少し待ってみるから!」「あの、オレ心当...

 

第三十四話 黒犬に噛まれて赤犬に怖じる
初戀 第三十四話
第三十四話 黒犬に噛まれて赤犬に怖じる初めて家に呼んだ友達が久御山くみやまだったせいか、うちの両親が久御山に寄せる信頼が篤あつい。愛想がよくコミュニケーションの...

 

第三十五話 生酔い本性違わず
初戀 第三十五話
第三十五話 生酔い本性違わず「はう…ん…くみやまぁ…」「おろしていい?」「だめ…きもちいからこのままがいい…」湊を抱えたまま寝室で立ち尽くし、耳元で漏れるエロい...

 

第三十六話 ハルの病に薬なし
初戀 第三十六話
第三十六話 ハルの病に薬なし宗むねさんのカラダはカッコイイ。あごの尖った卵型の輪郭、意志の強そうな直線の眉、長いまつげに縁取られた茶色の瞳、真っ直ぐに伸びた高い...

 

第三十七話 過ぎたるは猶及ばざるが如し
初戀 第三十七話
第三十七話 過ぎたるは猶及ばざるが如しどうすればいいのか正直わからない。はっきりわかるのは、産まれて初めてここまで興奮している、ということだけだ。なけなしの知識...

 

第三十八話 屠所の羊は鷺を烏と言いくるめ
初戀 第三十八話
第三十八話 屠所の羊は鷺を烏と言いくるめ「……悪い、話が見えないというか」「どこまで記憶あんの?」申し訳なさそうな顔をしつつ、いま自分の身に何が起こっているのか...

 

第三十九話 幽霊の正体見たり枯れ尾花
初戀 第三十九話
第三十九話 幽霊の正体見たり枯れ尾花「……なんで宗むねさんがここにいるの?」「えー…仕事の都合でちょっと…」「なんで部屋着でゴロゴロしてるの?」「今日はほら…休...

 

四方山話 袖振り合うも多少の縁とか
初戀 四方山話
四方山話 袖振り合うも多少の縁とか藤城 湊 ✕ 久御山 賢颯 「オトナのおもちゃ」「そういえば久御山って、おもちゃとか使わないね」「は?」「いじめるの好きだから...

 

第四十話 その男、魚住 翡生
初戀 第四十話
第四十話 その男、魚住 翡生「ケンソー先輩、いま付き合ってるひといますか?」「いや? いないけど」「じゃあ……ふたりっきりでエッチなことしませんか?」「…ふたり...

 

第四十一話 水に溺れる魚
初戀 第四十一話
第四十一話 水に溺れる魚世の中に男と女がいたのは昔の話で、いまのご時世ふたつの性別だけでは成り立たなくなっている。女の子なのに男のカラダを持って産まれて来るとか...

 

第四十二話 東男と京男 其の壱
初戀 第四十二話
第四十二話 東男と京男 其の壱「藤城ふじしろ先輩、いま付き合ってるひといますか?」「…いないけど」「じゃあ……ふたりっきりでイケナイことしませんか?」「……は?...

 

第四十三話 東男と京男 其の弐
初戀 第四十三話
第四十三話 東男と京男 其の弐「一時的な記憶障害でしょう、すぐ戻りますから心配いりませんよ」「すぐ、とはどれくらいの時間を指すのでしょうか」「そうですね……数分...

 

第四十四話 東男と京男 其の参
初戀 第四十四話
第四十四話 東男と京男 其の参「湊みなとは……オレと離れたい?」僕を抱き締める久御山くみやまの腕が温かくて、一瞬、何を言われてるのかわからなかった。「……オレは...

 

第四十五話 その男、桐嶋 彌秀
初戀 第四十五話
第四十五話 その男、桐嶋 彌秀「あ? もっかい言ってみろ」「すっ…すみません、すみません…!」「あー、日本語わからねェヤツだったか、わかるヤツと代われや」「すみ...

 

第四十六話 狐がつまむ狐憑き
初戀 第四十六話
第四十六話 狐がつまむ狐憑き「写真、いくらよ」情報屋としてシロクロ兄弟を働かせ、最後にまとめて成功報酬を払うという方法を取ると、ヤツらの胸先三寸で要求金額がヒト...

 

第四十七話 踵で頭痛を病む狐憑き
初戀 第四十七話
第四十七話 踵で頭痛を病む狐憑き「……オレをどうするつもり?」「ああ、先に言っとくけどおめェの荷物は東京駅のコインロッカーの中だ」「…っ……」「スマホのGPSと...

 

第四十八話 閨事、千里を走る
初戀 第四十八話
第四十八話 閨事、千里を走る学校の中庭で久御山くみやまから濃厚なキスをされる、という衝撃的な出来事から一週間、僕が懸念してたような罵詈雑言や差別などは一切なく、...

 

第四十九話 悪獣もなおその類を思う
初戀 第四十九話
第四十九話 悪獣もなおその類を思う「おはよ…藤城ふじしろ、どうだった?」玄関で一ノ瀬いちのせに声を掛けられ、うーん、と曖昧な返事をしながら下駄箱の扉を開けると、...

 

第五十話 月に叢雲、花に風
初戀 第五十話
第五十話 月に叢雲、花に風久御山くみやまは慌てることもなく僕に布団を掛けると、立ち上がって嵩澤たかざわに近付いた。「……何?」「何って……何してるんですか…」「...

 

第五十一話 爪で拾って箕で零す
初戀 第五十一話
第五十一話 爪で拾って箕で零すやっぱり具合悪かったんじゃないか? でも、何も言わずに早退するってどういうことだ? もしかしてなんか怒ってる!? いや、久御山くみ...

 

第五十二話 足下から鳥が立つ
初戀 第五十二話
第五十二話 足下から鳥が立つ「……これは…」桐嶋きりしまは血液検査の結果を見ながら眉間にしわを寄せた。まあ、これだけでは何とも言えない、と聴診器を首に掛け大きな...

 

第五十三話 蟻の思いも天に届く
初戀 第五十三話
第五十三話 蟻の思いも天に届く「ねえ久御山くみやま、シロクロくんたちと何するつもり?」「合コンみたいなもん?」「仕返しとかお礼参りとかじゃなく?」「……絶対に赦...

 

第五十四話 賽は投げられた
初戀 第五十四話
第五十四話 賽は投げられた「…よし、登録…と」「こっちも登録したで、真正のドMです、て」「うち、緊縛プレイでしか興奮できない体質なんで、てコメント書いたった」「...

 

第五十五話 梅に鶯、僕に君
初戀 第五十五話
第五十五話 梅に鶯、僕に君「ご主人さま、セックスしたい」「…久御山くみやま? 今日、金曜日だよ?」「うん」「学校は?」「オレのいない間に事件が起こったらイヤだも...

 

第五十六話 始めは処女の如く後は脱兎の如し
初戀 第五十六話
第五十六話 始めは処女の如く後は脱兎の如し「久御山くみやま、ほんとにいいから! 大丈夫だから!」「オレが全っ然大丈夫じゃないから」腕を掴んでなんとか引き留めよう...

 

第五十七話 主と交われば強くなる
初戀 第五十七話
第五十七話 主と交われば強くなる正直、湊には殴られるかもしれないと思ってたし、自分を責めて泣くかもしれないとも思ってた。僕が望んだことで久御山くみやまを傷付ける...

 

第五十八話 その男、樒廼 洸征
初戀 第五十八話
第五十八話 その男、樒廼 洸征「マジでお願い、久御山くみやまくん!」「意味がわからん」「わかんなくてもいいから、早く!」机に突っ伏した久御山は肩を揺すられ、切羽...

 

第五十九話 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い
初戀 第五十九話
第五十九話 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い「みーなーと」「うん」「約束、忘れてないよな?」「は? 約束?」「桐嶋先生の用事済んだら、なんでも言うこと聞くって言ったよな...

 

第六十話 狐、その尾を濡らす
初戀 第六十話
第六十話 狐、その尾を濡らす「先天性色素欠乏症?」「はい、先天的にメラニンが不足している遺伝子疾患ですが、生活にはほぼ支障ないそうです」「……はあ、冬慈とうじの...

 

第六十一話 猫に鰹節
初戀 第六十一話
第六十一話 猫に鰹節骨髄採取をするための検査結果は良好だった。HLAの型はもちろん、血液検査、感染症検査、胸部レントゲン、心電図、血圧、呼吸機能など、すべての検...

 

第六十二話 薄氷を履むが如し
初戀 第六十二話
第六十二話 薄氷を履むが如し「チビッコ、おまえ大丈夫か!」「澄晴きよはる、そのまま抱き着いたあかん! シャツ脱いで!」「湊、まだ吐く? もう大事ない?」「あ…は...

 

四方山話 其の弐 とある世界線のジングルベル
初戀 四方山話 其の弐
四方山話 其の弐 とある世界線のジングルベル今年も毎年恒例の「クリスマス久御山くみやま争奪戦」が繰り広げられていた。どうでもいいけど、久御山が受験生だってことみ...

 

第六十三話 焼け野の雉子、夜の鶴 其の壱
初戀 第六十三話
第六十三話 焼け野の雉子、夜の鶴 其の壱── 焼野やけのの雉子きぎす、夜の鶴雉(雉子は雉の古名)は巣のある野を焼かれると、己の身の危険も顧みず我が子を助けるため...

 

第六十四話 焼け野の雉子、夜の鶴 其の弐
初戀 第六十四話
第六十四話 焼け野の雉子、夜の鶴 其の弐ほんまはひとつのはずやった。それがふたつに分かれたんは、神さまの気まぐれやったんかもしれへんし、理由があったんかもしれへ...

 

四方山話 其の参 とある世界線の初日の出
初戀 四方山話 其の参
四方山話 其の参 とある世界線の初日の出クリスマスも終わりひと息吐いたところで、年始の準備に余念のない姉から花を買って来いと申し付けられ、生け花用の花を適当に見...

 

第六十五話 雨夜の月
初戀 第六十五話
第六十五話 雨夜の月ソファで胸の辺りを押さえながら、久御山くみやまは顔をしかめて笑う。笑うと折れた肋骨に響くので、また顔をしかめる。素人が30m下の川に飛び込ん...

 

第六十六話 人と屏風は直ぐには勃たず
初戀 第六十六話
第六十六話 人と屏風は直ぐには勃たず「…どんな顔してればいいんだろう」「普通でいいよ」「普通って言われても……」普通でいい、と言いながら硬い表情を見せる久御山く...

 

第六十七話 青天の霹靂
初戀 第六十七話
第六十七話 青天の霹靂「……で?」「で、って……何?」「最後てどこまでなん? 条件は?」「なんで記憶喪失のフリなんかしてんの?」「……はぁ…条件、それかいな…」...

 

第六十八話 溺れる者は藁をも掴む
初戀 第六十八話
第六十八話 溺れる者は藁をも掴む「最初に気付いたのは織田先生だったんだが」生後半年で言葉を解していると考えられた兄弟は、正確な知能検査を受けられるようになるまで...

 

第六十九話 未来永劫
初戀 第六十九話
第六十九話 未来永劫「……養子?」「きみたちはもう十八歳なので普通養子縁組になりますが」黒檀こくたんの病室で穏やかに微笑む冬慈とうじとは対照的に、黒檀も白檀びゃ...

 

第七十話 男心と秋の空
初戀 第七十話
第七十話 男心と秋の空高校生活最後の貴重な夏休みは、骨髄液を抜いたり川に落ちて肋骨を折ったり友人が死に掛けたり、その友人が兄になったりと慌ただしく過ぎ去って行っ...

 

第七十一話 鳴かぬ蛍が身を焦がす 其の壱
初戀 第七十一話
第七十一話 鳴かぬ蛍が身を焦がす 其の壱── 初恋は実らない…単なる都市伝説かと思っていたら、いろいろなところで行われたアンケート調査の結果、八割の男女が「初恋...

 

第七十二話 鳴かぬ蛍が身を焦がす 其の弐
初戀 第七十二話
第七十二話 鳴かぬ蛍が身を焦がす 其の弐── 「好き」と「嫌い」の境目ははっきりとわかるのに、「好き」と「愛してる」の境界線がわからない。ただ、あの日から時々上...

 

第七十三話 寝耳に洪水
初戀 第七十三話
第七十三話 寝耳に洪水夏休みも残り三日、久御山くみやまに「思い出作りに行こう」と言われ、僕は ──京都にある久御山邸の門の前で立ち竦すくんでいた。二年前にここへ...

 

第七十四話 狐の婿入り
初戀 第七十四話
第七十四話 狐の婿入り客間に残された僕とお父さんと華さんの間では、当たり前のように微妙な空気が流れていた。そりゃそうだ、息子が初めて連れて来た東京の友人が何者な...

 

第七十五話 火を避けて水に陥る
初戀 第七十五話
第七十五話 火を避けて水に陥る十七年と半年生きて来て、まさか自分が「結婚」を意識する日が来るとは思ってなかった。決して恋愛を馬鹿にしてたわけじゃないし、世の中に...

 

第七十六話 汝の敵を愛せよ 其の壱
初戀 第七十六話
第七十六話 汝の敵を愛せよ 其の壱まあ、あり得ない話じゃない。この子が三歳だとして、賢颯けんそうが十四歳の時にって考えれば充分成り立つ話だ。でも、父親が賢颯だっ...

 

第七十七話 汝の敵を愛せよ 其の弐
初戀 第七十七話
第七十七話 汝の敵を愛せよ 其の弐ひとの妊娠期間は約280日(40週間)で、妊娠前の最終月経が始まった日を「妊娠0日目」として数えます。一か月は28日として数え...

 

第七十八話 汝の敵を愛せよ 其の参
初戀 第七十八話
第七十八話 汝の敵を愛せよ 其の参「せんせー、突き指したぁ」保健室の扉を開けながら養護教諭の小田切おだぎりを呼んだ女子生徒に、小田切は「しーっ」と口の前でひと差...

 

第七十九話 汝の敵を愛せよ 其の肆
初戀 第七十九話
第七十九話 汝の敵を愛せよ 其の肆本当は撮影に着いて行こうと思ってた。あの、いつも飄々とお気楽な賢颯けんそうでも、プロが絡む本格的な撮影は初めてだろうし、何より...

 

第八十話 足駄をはいて首ったけ
初戀 第八十話
第八十話 足駄をはいて首ったけ「……駅まで送るよ」「すぐそこだから、大丈夫だよ」いまはわたしより藤城ふじしろくんのほうが……とにかく早く家に帰って休んで欲しい…...

 

第八十一話 その男、真壁 倖拓
初戀 第八十一話
第八十一話 その男、真壁 倖拓「うおっ、こんなとこで寝てんじゃねえよ!」バイト先の事務所でシフトの確認をしたあと、まだ少し時間あるなあ、と床に転がってると、出勤...

 

第八十二話 大行は細謹を顧みず
初戀 第八十二話
第八十二話 大行は細謹を顧みず「……なんで、俺?」コーヒーでも淹いれてる間に湊みなとが説明してくれるんじゃないか、と期待していた五分ほど前の自分を猛省した。湊は...

 

第八十三話 一輪咲いても花は花
初戀 第八十三話
第八十三話 一輪咲いても花は花「おう、どうした?」真壁まかべさんに連行されてから三十分くらいか。あんだけ余裕なさそうだったもんな、円山か道玄坂あたりにいるんだろ...

 

第八十四話 見ぬは極楽知らぬは己
初戀 第八十四話
第八十四話 見ぬは極楽知らぬは己「し、失礼します……」藍田あいだはそうっと真壁まかべの反対側からダウンケットをめくり、落ちるかどうかギリギリのところに身体からだ...

 

第八十五話 怨み骨髄から入る
初戀 第八十五話
第八十五話 怨み骨髄から入る「……Where can I buy a ticket?チケットどこで買うの?」「要らねえわ……」無駄にデカい門をくぐり抜け、玄関に...

 

第八十六話 黒白で争う
初戀 第八十六話
第八十六話 黒白で争う── Everything, or everyone and everything…anything and everything.すべて...

 

第八十七話 泣きっ面に蜂蜜
初戀 第八十七話
第八十七話 泣きっ面に蜂蜜まったく無関係の、しかも今日はじめて逢ったばかりの燠嗣おきつぐに、たとえ脅しであったとしても鋏はさみを向けるとか頭おかしいんじゃねえの...

 

四方山話 其の肆 犬も歩けば千載一遇
初戀 四方山話 其の肆
四方山話 其の肆 犬も歩けば千載一遇「新入生宣誓、代表 一年三組 藤城 湊ふじしろ みなと」「はい」「あの子が入試トップだった子?」「宣誓って毎年そうらしいよ」...

 

第八十八話 席暖まるに暇あらず
初戀 第八十八話
第八十八話 席暖まるに暇あらず新幹線の運転士をしばき上げることはなかったが、京都駅から東京駅、そこから家に向かうまでの間、湊みなとにどう連絡すればいいか悩み続け...

 

第八十九話 濡れぬ先こそ露をも厭え
初戀 第八十九話
第八十九話 濡れぬ先こそ露をも厭え「……いま…なんつった?」「受験…やめる…ん……っ…あ…」「待て、ちゃんと話を」「話より…先に…すること……ある…ん…」……そ...

 

第九十話 仰げば尊い推し
初戀 第九十話
第九十話 仰げば尊い推し「卒業生 答辞。卒業生 一同起立。代表 一組 久御山 賢颯くみやま けんそう」「はい」── 厳しい寒さの中にも時折、開花を待つ桜の息吹が...

 

第九十一話 砂上の楼閣
初戀 第九十一話
第九十一話 砂上の楼閣はじめての時はさすがに右も左もわからなかったけど、ディレクターとフォトグラファーがちゃんと指示を出してくれることを学習したオレは撮影に戸惑...

 

第九十二話 解語の花
初戀 第九十二話
第九十二話 解語の花「本っ当に三十分だけだからな」半ば強制的に連れて来られた "新規オープンの小洒落こじゃれたカフェ" のテーブルの上に、タイマーをセットしたス...

 

第九十三話 蜀犬、日に吠ゆ
初戀 第九十三話
第九十三話 蜀犬、日に吠ゆ玄関の扉が開く音が聞こえて慌ててソファから立ち上がると、「鍵くらい掛けておけよ」と湊みなとが靴を脱ぎながら笑った。いろいろな衝動に駆ら...

 

第九十四話 図南の翼
初戀 第九十四話
第九十四話 図南の翼「……は? マジで?」如月きさらぎさんと別れたあと、僕と賢颯けんそうはなんとなく109の中をうろうろと冷やかしていた。別にヒカリエでもパルコ...

 

第九十五話 胡蝶の夢
初戀 第九十五話
第九十五話 胡蝶の夢「自分で見りゃいいのに」賢颯けんそうはそう言いながら、スマホの画面をタップして「ほら」と僕の目の前に差し出した。「……なかったら怖いじゃん」...

 

第九十六話 色即是空、空即是色
初戀 第九十六話
第九十六話 色即是空、空即是色「こんにちは、賢颯けんそうくん」「おはよう、賢颯くん」「ありがとう、賢颯くん」「ごめんね、賢颯くん」「おやすみ、賢颯くん」コンニチ...

 

第九十七話 無累の人
初戀 第九十七話
第九十七話 無累の人「……ホントにシャワールームできてんじゃねえか」僕の部屋に入るや否や、元はクローゼットだった場所を覗き込んだ賢颯けんそうは、遠慮なく噴き出し...

 

第九十八話 泉下の客、喪家の狗
初戀 第九十八話
第九十八話 泉下の客、喪家の狗その日は八月だというのに気温が低く、朝から降りしきる雨が冷たかったことを憶えている。──まるで水の中にいるみたいだ。── 視界がぼ...