初戀 第十二話

初戀
物 語
第十二話 厭と頭を縦に振るしなんなら腰だって

 

藍田あいだと別れ僕は走った。もしかしたら、もう帰ったあとかもしれない。とりあえず玄関で靴を確かめれば、いるかいないかはわかる。そうやって玄関に走り込んだ僕の目の前に久御山くみやまがいた。

久御山は黙ったまま少しだけ口唇くちびるの端を上げ、すぐさま背中を向けて玄関のガラス扉に手を掛けた。その正面に回り込み久御山のネクタイを掴んで引き寄せ、キスをした。

「…っ…!!」
「ごめん」
「学校…の…中…だけど…」
「うん、わかってる」
「…なんで?」
「久御山がモテるのもわかるし、優しいのも知ってる」
「……何の話?」
「でも、久御山の笑顔が僕だけのものじゃないことにイラついてた」
「……湊?」
「久御山が他のひとに触られるのを見たくなかった」
「……」
「その気持ちを認めてしまうと、余計苦しくなると思った」
「どうして…」
「でも自分くらい認めてあげないと、誰も知るひとがいないんだなって思って…そしたら出逢った意味とか、そういうのも無駄になるんじゃないかって悲しくなってしまって」
「うん」
「だから、せめてこの気持ちにだけは素直になろうと思った」
「この気持ちって?」
「I think you’re the one……かな」
「I’ll do anything for you」
「久御山…」
「オレん家行こ、いますぐ行こ、とにかく行こ」
「……うん」

 

───

 

久御山の家に着くなり僕は軽々と抱き上げられ、ソファではなくベッドへと運ばれた。制服のまま久御山に抱き締められ、僕は息ができなくなった。久御山の腕って、こんなに優しかったっけ……

「はあ……湊のにおい、久しぶり…」
「…いきなり恥ずかしいこと言わないでいただけます?」
「シャンプーの香りと柔軟剤の香りと汗のにおい…体温でぬくまって甘いにおいする…」
「何のハードル上げてんだよ…」
「しあわせだなあって思ってるだけ…このにおいで白米三杯は食える…」
「いや待て、えらいマニアックな話になって来たぞ……」
「首筋と、耳の裏と、うなじでにおいが違う」
「あの、久御山、恥ずかしいんだけど」
「オレも違くない?」

久御山の首筋に鼻先をくっ付けると、石鹸の香りに混ざって薄っすらと汗のにおいがした。ボディソープとか柔軟剤の香りなのかな……香水付けてる? でも思ったより汗のにおいしないんだな……この暑い日に…

「確かに違うけどさ」
「うん、けど?」
「久御山、汗かかないの?」
「いや? 普通に汗はかくよ」
「なんか、あんまり汗のにおいしないね……」
「あ、ボディシート使うからかな」
「…イケメンは身だしなみに厳しいな」
「身だしなみっつか、汗拭くために使ってるだけだけど」
「そっか、僕も何か買ってみようかな」
「駄目」
「なんでだよ」
「湊、イイにおいするから」
「……いや、でもほら、汗くさいのは嫌じゃん」
「イイにおいだから問題ない」

口唇を優しくみながら柔らかい舌でその部分を確かめるようになぞり、それから僕の舌を掴まえゆっくりと絡ませる。久御山はキスが上手い。上顎をくすぐられ、滴る唾液を口の中に注がれると、僕の脳は考えることをやめてしまう。口唇を吸う絶妙な力加減に、尖らせた舌先に、胸の奥が落ち着かなくなる。

久御山はネクタイを外すとそれで僕の目を覆い、唐突に視界を奪われた僕は焦りで声が裏返りそうになった。

「待て、何のプレイだよ」

目隠しをされたまま久御山にネクタイを外され、シャツのボタンを外される感触に慌ててその手を押さえる。

「久御山待って、さすがにシャワーしたい」
「……させると思う?」

そう言うと久御山は僕のシャツを剥ぎ取り、僕の腕を背中で縛った。

「久御山……緊縛プレイは難易度高過ぎない…?」
「ネクタイで緩く結んだだけだから、動かせば外れるよ」
「何のために縛ったんだよ…」
「人間の感覚って、失った分を補うようにできてるっていうからさ」
「うん、それはまあ、わかるけど…」
「久しぶりだし」
「うん、それもわかる」
「においの話したばっかりでさ」
「うん……」
「一日汗かいてシャワーもせずに、しかも目隠しされて腕も動かせないままなぶられたらさ」
「……うん」
「湊、涙目になってよがり鳴くんだろうなあ、って」
「何言ってんだよ!!!!!」

そっとうつ伏せに倒され腰を持ち上げられて、ゆっくりベルトを外された僕は、さすがに抵抗を試みようと腕を動かして……全っ然外れる気配ないよ久御山!

「……いい眺め」
「おまえちょっと待て、腕ほどいてよ」
「湊、ほんときれいなカラダしてんのな」
「やめろ! いいからほどけって!」
「細いけど肩幅そんな狭くないし、手脚も長いし」
「久御山…いい加減怒るぞ……」
「足の指の形もきれいだし」

その途端、爪先にぬるっと温かいものを感じて僕は身体を縮こまらせた。

「……くすぐったい?」
「やめ…何するんだよ……」
「足の指、しょっぱいね」
「…!!!」

待て久御山、おまえ少しはイケメンだって自覚持てよ、何してんだよなんで足なんか舐めてんだよ! くすぐったい以前に恥ずかしさと申し訳なさで脳が沸騰しそうだよ、やめろ久御山!

まったくやめる気配のない久御山をもう一度とがめようと息を吸ったとき、耳をかすめた音に全身が熱くなった。久御山の舌の動きに合わせ響く水音に、ますます聴覚が過敏になって……下腹の奥が疼いた。

「久御山……恥ずかし…からやめて…」

いやらしく響いていた水音が止んで、それでも僕の鼓動は加速したままだった。気持ちいいかどうかなんてわからない。それなのに……勃っていることは確かで、舐められているときよりも恥ずかしくなった。

「…今日もピンク色できれいだね、乳首」
「…っ!!!」
「触ってないのに……見てわかるくらい尖ってるじゃん」
「やめろって…そういうこと言うの…」
「触られてるの、想像しちゃった?」
「久御山…!」

尖らせてるのは自分でもわかる…久御山の舌のなめらかさと指先の感触を思い出して、そうされることを待ってる自分がいるのもわかってる……それなのに、熱い息が掛かるだけでその先に進んでくれない久御山に、身体が焦れて来る。

「…久御山……」
「我慢できなくなっちゃった?」
「そ…んなんじゃ…ない…」
「可愛くおねだりして見せて」
「やだよ…」
「じゃあ、やらしくおねだりして」

そんなこと言われても……どう言えばいいんだよ……見られてるって感覚だけははっきりとわかるのに、直接身体への刺激がなくてもどかしくなって来る。

そのとき、触れるか触れないかくらいのかすかな感触で、尖って縮こまった乳首の先に何かが触れた。

「あ…っ…う…」
「……敏感過ぎない?」
「久御山…」
「すごいね……いまのこれだけであふれてんじゃん…」
「久御山…!」
「おねだりして、湊」
「な、何言えばいいか…わかんないよ…」
「して欲しいこと言えばいいよ」
「……触って欲しい」
「どこを? どうやって?」
「……乳首…触って…」

そっと歯を立てながら舌先で尖った先端を突つき、口唇で包み込むように吸われた瞬間、全身鳥肌が立った。

「あ…っ…くみや…ま……あ…」
「どうしたの、湊…なんでそんな感じてんの」
「あ、あ…もっとして…久御山…もっと…噛んで…」
「噛まれるのがイイの?」
「ん…久御山に気持ちくされたい…」

歯を立てる強い刺激と、柔らかく舌を動かす甘い刺激に、僕の脳は混乱しすべてを投げ出そうとする。こんなことをされて声をあげる姿を見られたくないと思いながら、その恥ずかしい自分をもっと知って受け入れてくれることを望んだりもする。久御山の口唇と舌が、僕をどんどんわがままにして行く。

「あ、あ、だめ、あ…イイ…気持ちい…あ…」
「…エロ過ぎてオレが持たないわ」

そう言うと久御山は、脇腹から腰まで舌を滑らせ、そしてなぜか動きを止めた。

「すご……シーツびしょ濡れ」
「ん…なに……」
「先走りハンパないね……なんかもう愛液レベルじゃん」
「え、ごめ……」
「そんな気持ちイイ? エロい汁、糸引いてるけど」
「やめ…やめてよ…」
「まだ乳首しか触ってないのに」

そんなこと言われても、僕にだってわからないよ……視界と腕の自由を取り上げられて、それなのに触れる指も口唇も舌も、息遣いひとつだって久御山のものだと思うだけで堪らない気持ちになる…

触られたくて待ち切れなくてだらしなく愛液・・を垂れ流しながら欲しがる僕を、久御山は巧みに支配して行く。どう言えば、どうすれば僕がくなるのかをすべて知ってるみたいに、散々焦らして勃っているモノをその手で握る。

「う…あ…あ、あ、あ…っ…」
「まだあふれて来るんだ」
「んん…っ…」
「…柔軟剤の香りと汗のにおい」
「…!!!」
「体毛薄いからかな…思った以上に、におい薄いね」
「や…っ…ん、ん、ん…」
「…こっちはどうなのかなあ」

横向きの身体をうつ伏せにされ、声を出す間もなく腰が持ち上がる。ずっと脈を打ち続けてる硬いモノを手の中でぬるぬる動かされ、下腹の奥が痺れて来る…

「…あ…っ…ダメ、久御山…めちゃ…だめって…」
「冷静だね、湊……まだそんなこと言う余裕あるんだ」
「だって…や…」
「…こっちはもっと薄いな、におい」
「やめて!!!」
「もっと期待してたのになー…でもピンク色できれいだね」
「やめてよ…恥ず…」
「ヒクヒクしてんの、なんで?」
「久御山…!」
「挿れて欲しいって言ってんのかなあ……ねえ、湊」
「こ…の…ドS野郎…」
「挿れたいのに我慢して自分を焦らしてるドMだけどね」

やめて、お願いだからそこは吮めないで……そう思いながら、意に反して動く腰を止められなくなる。僕は、久御山が与えてくれる甘い快楽の味を思い出しのどを鳴らす。もっと、もっと、もっと……逆らえなくなるくらい、言い訳ができるくらい、久御山のせいにできるくらい……もっと激しくして、僕をいやらしくして……

「はぁっ…あ…くみや…ま……も、無理…」
「じゃあ……吮めて」

身体を起こされ、口唇に触れた硬いモノに舌を伸ばす。久御山もこんなに大きくなってるんだ……形を確かめるように舌でなぞりながら、口の中で更に膨張する久御山に、みぞおちの奥が震える。あ…久御山のにおい……視界を奪われているからか、においも味もいつもより生々しく感じた。

久御山のオスのにおいに、すべてのたがが外れそうになる。こんなにいやらしいにおいだったっけ……欲情なんて人間らしい感覚じゃなく、ただその身体が欲しくて発情する。

「…っ…湊…ちょ…待って、そんなにされたら…」
「も、待てない……欲し…」
「いや、あの、イっちゃったらそこで試合終了だから…」
「じゃあすぐ挿れて……久御山ので擦っていっぱい鳴かせて…」

 

───

 

「はああああ……湊が可愛過ぎてツライ…」
「…シーツ、汚しちゃってごめん…」
「いや、全然それはいいんだけど」
「そのためにいつもソファなのかと思ってた」
「……シーツとか布団に湊のにおいが付いたらさ」
「う、うん」
「寝れなくなるじゃん」
「…は?」
「だから寝る場所とは切り分けてただけで、汚れるのが嫌とかってんじゃないよ」
「じゃあなんで今日ベッドにしたんだよ…」
「うーん……プライベートを共有したくなったから?」
「あ、うん…そっか……あの、クリーニング代、出すから…」
「要らないよ、洗わないから」
「は!? 洗おうよ!」
「やだよ、何言ってんの」
「何言ってんの、はそっちだろ! 洗えよ! どう考えたって汚いだろ!」
「い・や・で・す……あ、ここも湿ってる…」
「洗えよ! 頼むから洗ってよ!!」
「明日から寝不足になるかも」
「久御山ぁ…!!」
「ねねね、もっかい “久御山ので擦っていっぱい鳴かせて” って言って?」
「やだよ!!!!!」
「……想像したら勃って来た」
「何を想像したら直後にそうなるんだよ!!」

 

イケメンで身長高くて頭も性格も良くて女好きでエッチ好きで巨根で絶倫……モテないわけがないよなあ……もう、モテるのも久御山の一部ってことなんだろうなあ。

 

── I’ll do anything for you.

久御山……「なんだってしてやるよ」って、もしかしてベッドでのことだったのか…?