その56
「高学歴、高収入、高身長、イケメン、イケボの楠本さんがフラれるなら人類はみんなフラれますよ!」
「学歴とか、恋愛に必要なもん?」
「要らないですね!」
「ですよねえ」
それが武器になるなら悩まないし困らない。
「彼女さん、何がご不満なんでしょうね」
「不満ていうか、不安なんじゃないかな」
「イケメンが浮気するんじゃないか、とか」
「まあ、そういうのも含めてだろうけど」
あ、イケメンを否定し忘れた。
「イケメンの定義もひとによって違うでしょ」
「そうですけど、楠本さんはイケメンです」
定義とは?
その57
ガパオライスを突っつきながら、僕が社内でどれだけモテているか、という話を湊から聞く。なんでも、取引先の社員や下請けの社員からもモテているそうだ。
「その割には本人に告るひと、ひとりもいないんだけど?」
それだけモテてたら、ひとりやふたり声を掛けて来てもよさそうなもんだ。
「楠本さんが気付いてないだけでは?」
「告られれば気付くでしょうよ」
「じゃあわたしが告ります!」
「義理チョコよりも義理だな…」
「ほら、そうやってまた茶化す」
茶化してるつもりはないけど、どう答えるのが正解なんだ?
その58
「茶化してはないけど、とりあえず続きを聞こうかな」
「楠本さんが好きです」
「…え?」
「もしフラれたら、次の彼女候補にわたしも入れてください」
そんな候補はひとりもいないけど、本気なんだろうか。
「確認してもいい?」
「どうぞ」
「好きっていうのは、先輩としてとか、友達としてとかではなく?」
「男性として、好きです」
湊が? 僕を? それはさすがに気付かなかったな。
「…いつから?」
「入社してすぐです」
「最初人事にいなかったっけ」
「いました」
「…どこにも接点ないんだけど」
どうして好きになった?
その59
「わたし、入社して三日目に社員証忘れて来たことがあって」
「うん」
「その時、背の高いイケメンが助けてくれたんです」
「へえ」
「入口で鞄ひっくり返して中身確認してたら、大丈夫?って」
「まあ大丈夫じゃないよね」
「そしたら中身拾ってくれて、こっちおいでって守衛室まで案内してくれて」
「入社三日目じゃ焦るだろうな」
「救世主に見えました」
「ドラマチックな…」
「憶えてないですか」
「…え、何を?」
「その背の高いイケメンは、いまグローバルSE部でPMをしています」
はあ、なるほど、僕ですか。
その60
「それから会社でイケメン探しに明け暮れました」
「仕事しなさいよ…」
「割とすぐ、見付かりました」
「へえ、なんで?」
「同志がいっぱいいたので!」
「何の同志やら…」
「なので! 彼女候補にわたしも入れてください!」
「いまんとこ湊ひとりだけどな」
「やったー! フラれても内緒にしておきましょう!」
「だから確定かよ」
湊を家まで送ったら、なんだか帰りづらそうにしてたので、もう少し一緒にいたいってことかなあと、なんとなく思った。すると、意を決したように湊がこっちを向いて
「手、触らせてください!」
…手?