あのときの僕の話をしよう 10

あのときの僕の話をしよう
物 語

その46

「楠本さん、全然気付いてないんですか?」「何に?」

世界一不幸な彼女が羨ましいって話はどこに行ったんだろう。

「部内は当然、社内でもモテモテなのに」
「そうなの?」

いや、そんな話聞いたこともないんだけど。

「それだけ、彼女さんしか見えてないってことですか…」
「そうなるのかな?」
「…ちょっとは否定してください」
「…え?」

ごめん湊、僕にはまったく話が見えない。

「ここ、否定したほうが好感度上がった?」
「…いえ、彼女さん一筋だから好感度高いのかも」

よくわからないけど、結果オーライみたいだ。

 

その47

「遅くまでありがと、また明日…あとでね」
「はい、送っていただいてありがとうございます、またあとで」

これからルイの部屋に行くと1:00過ぎるな…とりあえずLINEか…

「いま終わった。今日はごめん」

割とすぐに返事が来た。

「何に対して “ごめん” なの?」

…やっぱり怒ってる挙句、どう答えても角が立つことを訊いて来るよな。

「ひとりにしちゃったから」「そこは別に」
「放置しちゃったから?」「やっぱりわかってないよね」
「ごめん、何が悪かったか教えて」「…キライ」

重症だ。

 

その48

多分これは「落ち着くまで待つヤツ」じゃなくて「いますぐ行って謝るヤツ」だろうな。合鍵貰っておいてよかった…けど…チェーン掛けられてちゃどうしようもない。

「ルイ開けて」「帰れば?」
「帰らないから開けて」「明日も仕事でしょ」
「仕事だけど開けて」

不毛なLINEのやり取りの末、チェーンを外してもらったのはいいけど、今度は代わりにルイが外に出て行こうとする。

「こんな時間にどこ行くの…」
「みっちゃんのいないとこ」

はあ…わかったよ、今夜は帰る。そう言うと、ルイに抱き締められた。どうして?

 

その49

「やっと帰って来た」

ルイはそう言うと、ベルトを外しシャツを手繰り上げた。

少し緩めたネクタイを「エロかっこいい」と言い、そのまま僕の上にまたがって、僕を見下ろす。

「嫌いじゃなくなった?」「嫌い」

そう言いながら、脚の付け根を確かめるようになでて、ふふっと笑った。

「嫌いって言われても感じるの?」「うん」「じゃあ好きって言われたら?」「もっと感じる」「大好き」

彼女は僕を握ったままその手を優しく動かし、欲しがる僕をただ楽しんで見てるだけで、満足そうに笑う。

「挿れたい」「ダメ」

死にそうだ…

 

その50

いつだって彼女のターンで、僕は手も足も出ない。滾らせるだけ滾らせて横で寝息を立てる彼女を、それでも愛しいと思う僕はどうかしてるんだろうか。明日も仕事で多分残業。いつまでおあずけ食らうんだろうな。

そして彼女の電話が鳴る。夜中の三時に?

「ルイ、電話」「うん」「出ないの?」「うん」「急用かもよ?」「いいの」

そっか、見なくても相手が誰だかわかってるから、シカトできるんだろう。そうじゃなきゃ、相手くらいは確認するよな。

それでも彼女を愛しいと思う、僕は…果たして存在するんだろうか。