文章

物 語

光を、呼ぶ声 0.

Prologue男は苛立っていた。そんな男の苛立ちを知りつつ、ゆっくりと、念入りに書類を確かめ、もう一度上から下まで書類を丁寧に読んでから、少し複雑な面持ちで「...
物 語

しあわせのかたち

しあわせのかたちずっとこのまま、この瞬間が続けばいいのに。わたしは全身でそれを願った。祐ちゃんが帰って来ない。いつもならとっくに家にいて、1日の出来事を面白おか...
物 語

あたたかい場所

あたたかい場所その数日間、ぼくの家はバタバタと騒がしかった。毎朝仕事に行くお父さんの分まで、お母さんがせわしなく動き回っていた。部屋に散らかっている大きな段ボー...
物 語

あのときの僕の話をしよう 8

その36僕が言い出さなければ彼女からその話が出ることはないだろう。相応しくないとか、わたしのためっていうのはイヤだとか、なんだかんだ余計なことを考えてどうせ彼女...
物 語

あのときの僕の話をしよう 7

その31気落ちする彼女を抱き締めて、口移しでシャンパンを注ぎ込む。大丈夫、サプライズがきみにとって本当の意味で驚きだったことは残念だけど、僕はこんなにきみを愛し...
物 語

あのときの僕の話をしよう 6

その26どれだけ寂しくても、どれだけ不安でも、容赦なく陽は昇り朝はやって来る。昨日の夜抱き締めた彼女のぬくもりは消え去っていて、体温の低い僕はひとりで上手にから...
物 語

あのときの僕の話をしよう 5

その21「じゃあ僕のためだったら結婚してくれる?」なるべく不自然にならないように、それとなく彼女に伺う形で僕は産まれて初めてのプロポーズを終えた。「それが本音な...
物 語

あのときの僕の話をしよう 4

その16「こんなに好きなんだけどな」抱き締めても溶け合わない、混ざり合ったりはしないふたつのからだ。そうか、こんなとき彼女が言うように「溶けてひとつになれば」彼...
物 語

あのときの僕の話をしよう 3

その11容赦なく口の中にねじ込まれる彼女の薬指に、僕はそっと歯を立てた。「もっと強く」力いっぱい噛んだらちぎれそうなほど細い指。どうして彼女はこんなことを求める...
物 語

あのときの僕の話をしよう 2

その6何しろ彼女は特別だった。僕にそう思わせていたのは彼女の容姿や学歴や趣味が抜きん出て素晴らしいからではなく、すべては彼女との情交に集約されていた。「からだに...