その16
「こんなに好きなんだけどな」
抱き締めても溶け合わない、混ざり合ったりはしないふたつのからだ。そうか、こんなとき彼女が言うように「溶けてひとつになれば」彼女が愛しくてたまらない僕のこの気持ちを共有することができて不安にさせたりしないのかもしれない。
「わたし、相応しくないと思うの」
何が彼女にこんなことを言わせているのか。たったいま僕たちはお互いに弱くて敏感な部分を擦り合わせ、なくてはならないその存在を確かめ合ったばかりじゃないのか。
「相応しくないって?」
返って来る答えが少し怖かった。
その17
「みっちゃん、モテるし……」
彼女の返事に拍子抜けした僕は、安堵からか思わず笑ってしまった。笑い事じゃないと彼女は眉間にしわを寄せたけど、僕にしてみれば心底要らぬ心配にしか思えなかった。
「そんなこと?」
彼女の額にくちびるで触れる。ほら、それだけで僕はこんなに嬉しくてしあわせで、こんなにまた高まっている。この気持ちを手のひらに乗せて見せることができたらなあと、このときほど強く思ったことはなかった。
「愛してるって、ちゃんと言って」
「愛してるよ」
きみさえいれば他には何も要らない。
その18
そろそろ帰らなくちゃなあと言いながら、もう一度彼女をぎゅうっと抱き締める。よし、これで明日も乗り切れる。
「……帰したくない」
首にまわした僕の両腕を、彼女が強く掴む。背中から彼女の耳をそうっと噛んで、僕だって帰りたくないよ、と言うと彼女は掴んだ腕にますます力を入れる。
もうこれは帰り際の儀式みたいなもので、僕たちは毎回すんなりと帰ることができない。彼女がわがままに振る舞えば振る舞うほど、不思議と僕の胸は穏やかになる。愛されている。多分そう思えたからだろう。
「いつもごめんね」
彼女がつぶやく。
その19
謝らなくちゃいけないことなんて、何ひとつないよ。僕はきみがわがままを言って困らせてもいい唯一の相手だし、むしろそのために生きているようなものだ。
「大好きだよ」
服を整えて、もう一度彼女を抱き締める。シーツを素肌に巻きつけながら、彼女は僕のシャツのボタンを外す。
「離れなくてもいい方法、ない?」
溶け合ってひとつになる案はいまいちだったから、他の手を考えなくちゃ。現実的な話で言えば、たったひとつしか方法などないのだけど。かといっていまこの状況でそれを口にするのも、はばかられるよな。
その20
ボタンをすべて外し終えた彼女が、はだけた胸に抱き着いて「やっぱり帰したくない」と、寂しそうにつぶやいた。うん、そうだね、僕も帰りたくなんてない。こんなシチュエーションだけど、やっぱりいまがそのときなのかなと言い掛けては、どんな言葉が最適なのかを考えて上手く言葉にできずにいた。
「結婚とか、そういう形式が欲しいわけじゃないの」
僕は慌てて口をつぐむ。いままさに言わんとしていたことを見透かされたようで、若干の動揺を隠せない僕に彼女は何かを察したようだった。
「わたしのため、っていうのがイヤなの」