ぱちりと目が合った。逸らすには不自然だし、かといってそのままでは僕の止まった呼吸が持たなかった。「…なに?」彼女は長い睫毛を少し伏せながらぶっきらぼうに話しかけて来た。「あ…や…別に…」僕は握っていた吊革を左手に持ち替えながらわかりやすく窓の外を眺めた。彼女もつられて目をやった。
「…もうすぐ夏だね」流れて行く景色を見ながらつい言葉が漏れた。彼女は少し驚いた顔で僕を振り返って「都築でもそういうの、気にするの?」と僕の袖口を掴み「夏とか海とかそういうの興味ないと思ってた!」と早口で言い終わると、アッと袖口から手を放し耳まで真っ赤にしながらゴメン、と呟いた。
夏だねとは言ったけど海の話はしてないなと思いながら「興味ないわけじゃないよ」とまた吊革を持ち替え「…行く?海とか」と彼女の横顔に話しかけた。パッと彼女の瞳が輝いて「行く!」と僕の袖口を掴んだ。照れ屋な彼女の素顔を少しだけ垣間見た気がして嬉しかったけど、明日はきっと元通り。