彼の彼女と、わたし

彼の彼女と、わたし
手 紙

彼の彼女と、わたし

 

Re:突然すみません

差出人 久御山 <xxkumixxxx@xx.xxx.jp>
宛先 saxxxxxxryou@xxx.com

 

はじめまして、久御山と申します。

足跡が残っていること自体は然程問題ではありません。
SNSとは本来そういうものだと認識していますので。

ただ、公開範囲が友人までになっているので、何度見に来られても中身は見えないのにな、とちょっと不思議に思って足跡を踏み返してみたのですが、リョウちゃんの彼女さんだったんですね。

いただいたメッセージの内容をちょっと把握し切れていないのですが、リョウちゃんの過去の日記でわたしの存在を知って、リョウちゃんと喧嘩されたということですか?

メールアドレスの件もよくわからないのですが……

リョウちゃんのメールアドレスにわたしの名前が入っている、ということでしょうか。

 

把握し切れていないので、的外れなことを言っているのかもしれませんが、メールアドレスがお気に召さないのであれば、なぜ不愉快なのかを彼に伝えればよいのではないでしょうか。

「前の彼女の名前のままにしておくのは一般的におかしい」とか

「前の彼女の名前のままにしておくのは常識的におかしい」とか

世の中に簡単に転がっているような理由であれば、相手に察してもらうのは難しいでしょうけど、なぜいやなのか、なぜ許せないのかをご自身の言葉でちゃんと彼に伝えれば、少なくとも呆れられるようなことはないと思います。

「普通」とか「一般的」とか「常識」とか、その範囲は個々人によって異なるものですし、通り一遍のヤキモチで相手を責めても何も伝わらないと思います。

沢口さんがリョウちゃんのことを好きで、リョウちゃんを大切にしたいと思っているのであれば、ちゃんと言葉で気持ちを伝えないとわからないと思います。

メールアドレスを変えて欲しいと思ったこと、そのものは表面的なことではないと思いますが、伝え方に温度差があったのではないでしょうか(呆れるとか頭冷やせとか、言われたことから想像すると、とてもすんなり話が進んでいるようには感じないので)。

恋愛関係を存続させるうえで大切なことは、「悪いところをマイナスする」ことではなく、「良いところをプラスする」ことだと思います。こんなことを言ったら嫌われるとか、嫌われたくないから我慢するとかではなく、好きになって貰うために努力することが大切なのではないかな、とわたしは思います。

いただいた沢口さんからのメッセージを読んで、わたしには痛々しいな、と思えました。

大好きなひととお付き合いしているはずなのに、つらいとか悲しいとか、しあわせとは真逆の気持ちばかりを感じているように見受けられますので。

 

相手を信じることは簡単なことではありませんが、自分を信じることはできると思います。

相手に愛されることばかりで自分の中がいっぱいになってしまうと、苦しくなるだけで|

 

 

── ここまで書いて、送ろうか、送るまいか、しばらく悩む。

リョウちゃんのいまの彼女、というひとをわたしは知らない。リョウちゃんのメールアドレスがわたしの名前だったから、そのせいで喧嘩になって、リョウちゃんに呆れるとか頭冷やせとか言われた、こんなことを言わせるのは一体どんな女なんだろう、どうしてわたしが怒られなくちゃいけないの、と訴えているのは文面から明らかだけど。

どっちにしろ、わたしに文句を書いて寄越すくらいだから、リョウちゃんとは上手く行ってないのだろう。

少しだけ気分が悪かったのでリョウちゃんにメッセージを送った。

 

 

「彼女から、メール来たけど」

「は? ごめん、まさかそっちに行くとは思わなかった」

「いいけど、上手く行ってないの?」

「うーん……まあ……リカじゃなければ誰でもいいと思って」

「え、選考基準間違ってない?」

「だってまだリカのこと好きだもん」

「うん、そっか」

「リカに逢いたい」

 

しょうがないひとだ。でも、そのしょうがないひとを可愛いと思ってしまうわたしも、きっとだめな女なんだろう。とりあえずメールは削除して、出掛ける準備をしようかな。